昭和10(1935)年の暮れも押し迫った12月26〜29日、帝国ホテル演芸場において、石川達三原作の「蒼氓」が上演されました。新劇座の第13回公演で、脚色・青江舜二郎、演出・金子洋文。これが青江の、東京での劇作家としてのデビューです(大阪でのデビューはこれより5年早い1930年4月の浪花座における「人気投票」)。

「蒼氓」のスタッフの顔ぶれを見ると、原作、脚色、演出の3人がそろって秋田人。特に金子とは、これまでのつながりもあり、同郷のよしみという感じを強く受けますが、実際には連載にも書いたように、青江の抜擢は久保田万太郎の推薦によるところが大きいようで、これ以降、金子と青江が仕事でコンビを組むことはありませんでした。このあたりは、作家としての「資質の違い」によるものだったかも知れません。
なお、今回の執筆に当たり、当時のプログラム(筋書本)を探したのですが、あいにく自宅にはなく、早稲田大学演劇博物館、松竹大谷図書館にも出向いてみましたが、どちらも空振り。この二箇所で収蔵がないとなると、私としてはお手上げです。神保町あたりの古書店を地道に回ってみれば、もしかしたら見つかるのかも知れませんが…。
これ以外にも、さきに挙げた1930年4月の浪花座や、1936年8月の新宿第一劇場など、青江の作品が上演されたというデータは残っているものの、プログラムが確認できないものが、特に戦前はいくつもあり、非常に残念な思いです。以下に行方不明のものを挙げておきますので、万が一「あ、これは持ってるぞ」とか「持ってはいないけど、ある場所なら知っている」という奇特な方がいらっしゃいましたら、是非こちらまでご一報いただければと思います。
1930年4月 第一劇場 淀君/色気ばかりは別物だ/疵高倉/人気投票 於・大阪浪花座
1935年12月 新劇座 蒼氓/初旅 於・帝国ホテル演芸場
1936年6月 創作座 避暑地です/山鳩 於・飛行館
1936年8月 新劇座 鬼怒子/弥太五郎源七/多情仏心 於・新宿第一劇場
1936年11月 創作座 大地 於・飛行館
(青江の作品は青色で示しました)